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乳酸菌が善玉菌といわれる理由

体に有用な善玉菌と有害な悪玉菌

腸には100兆個以上の細菌が生息している

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私たちの腸内には500種類以上、100兆~1000兆個、重さにすると1kg以上の腸内細菌が生息し、種類ごとにまとまり腸内フローラを形成しています。
腸内細菌は今日では乳酸菌やビフィズス菌などの体に有用な善玉菌、大腸菌(有毒株)やウェルシュ菌といった体に害を及ぼす悪玉菌、そのどちらにも属さない日和見菌に分けられています。
とは言ってもこれらの腸内細菌がただ生息しているわけではありません。体に有用であれ有害であれ、それぞれ異なる働きをしています。
腸内に地球の人口を上回る数の細菌が生息している理由は、大腸に運ばれてきた食べ物に含まれるたんぱく質や糖類をエサにしているからです。
私たちが食事で摂った食べ物はまず胃でおおまかに消化されて、次に小腸で分解と吸収が行われますが、全てが吸収されるわけではありません。小腸で消化吸収できなかった栄養素を腸内細菌が利用しているのです。

善玉菌という言葉が生まれた背景

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善玉菌と悪玉菌という言葉は今ではすっかり有名になりましたが、使われるようになったのは意外と最近のことです。初めてこの言葉を使ったのは、日本で腸内細菌研究の第一人者である東京大学の光岡知足名誉教授と言われています。1970年頃のことです。
当時、細菌と言えばコレラ菌、チフス菌、赤痢菌、黄色ブドウ球菌といった病原性を持つ菌という認識が一般的でした。実際に衛生状態が悪かった戦後しばらくは、コレラやチフスで命を落とす人が多くいたという事情もあります。食中毒の原因である黄色ブドウ球菌は多くの人にとっても身近な細菌でした。
つまり当時の日本では今で言う悪玉菌ばかりが知られていて、細菌と言えば「危険なもの」「怖いもの」というイメージが定着していたのです。
これに対して「ビフィズス菌など体に有用な菌もある」ということを世に知らしめる目的で使われるようになったのが善玉菌という言葉です。
光岡氏の研究で成人の腸内でもビフィズス菌が優勢であることが認められた時期でもありました。それでも生物を一概に善と悪に分けるのは「乱暴である」と当時は批判もあったそうです。
しかし、それぞれの菌が人の健康に貢献するのか、それとも病原性を持ち害を及ぼすのか多くの人に知ってもらうために、善玉菌と悪玉菌に分ける必要がありました。

善玉菌と悪玉菌の働き

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では腸内に生息する善玉菌はどのような働きをするのでしょうか? 悪玉菌は善玉菌と対照的な存在ですから悪玉菌の働きについても知っておきたいところです。
善玉菌と悪玉菌の働きを簡単に説明すると以下のようになります。

善玉菌 糖をエサにして増殖して発酵し腸内環境を整える
悪玉菌 たんぱく質や脂質をエサにして増殖して腸内腐敗を引き起こす

善玉菌と悪玉菌はどちらも小腸で吸収しきれなかった栄養素をエサにして活動しています。とは言えこの両者はエサとする栄養素も異なりますし、全く正反対の働きをします。
善玉菌は糖をエサにして活動し発酵することで腸内環境を整えます。一方の悪玉菌は食べ物に含まれるたんぱく質や脂質をエサにして増殖して、インドールやスカトール、アンモニアや硫化水素といった有害物質を作ることで腸内を腐敗させます。
発酵と腐敗は一見すると似ていますが全く違う現象で、腐敗はpHを上げてアルカリ性に近づけて腸内環境を悪化させます。それによって便秘やお腹の張り、下痢などが引き起こされます。

乳酸菌が善玉菌である理由

腸内環境を整える乳酸菌とビフィズス菌

乳酸菌が善玉菌である理由はその性質にあります。乳酸菌やビフィズス菌に代表される善玉菌は、糖を代謝して乳酸や酢酸といった有機酸を生成する性質があります。これはヨーグルトや漬物類などの発酵食品ができる過程で起こる乳酸発酵と全く同じです。
私たちの腸内で善玉菌が活動をして発酵が進むことで、酸が作られてpHが下がり腸内環境が酸性に近づきます。
腸内に生息する善玉菌は弱酸性の環境を好みますから、pHが下がることで他の善玉菌も活性化して、悪玉菌を抑制して腸の機能を維持することができます。
善玉菌によって腸内環境が整えられることで消化吸収が促されるほか、食べ物を腸内で動かしながら排出に導くぜん動運動が活発になります。
それによって自然に便意を感じることができ、適度なお通じが保たれて便秘を予防することができます。さらにぜん動運動によって腸内に溜まった腐敗物質が少しずつ排出されていきます。
このように、乳酸菌は腸内環境を整えることで体に有用な働きをする微生物であり、これが善玉菌と言われる理由です。

人の腸内で乳酸菌は少数派

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乳酸菌は大きく分けて乳酸桿菌、乳酸球菌、ビフィズス菌に分かれています。このうちビフィズス菌は一般的に乳酸菌の一種として扱われていますが、厳密には別の善玉菌として区別されることもあります。
乳酸桿菌と乳酸球菌は、比較的酸素が薄い環境を好むために主に小腸に生息しています。実は人間の腸内に生息する乳酸菌は100兆個もの腸内細菌の中では僅かな数であり、成人の腸内では便1gあたり数十万個程度に過ぎません。
これは善玉菌全体からしてもほんの数%で、体に与える影響はそれほど大きくありません。

善玉菌の95%以上はビフィズス菌

腸内の善玉菌で常に優勢なのはビフィズス菌です。酸素がある環境では活動できない偏性嫌気性菌であり、口から遠い大腸に生息しています。
成人の腸内で善玉菌の95%以上はビフィズス菌が占められています。光岡氏は「人はビフィズス菌動物」と述べています。それほど人間とビフィズス菌の関わりは深く、私たちの腸内環境を維持するために欠かせない存在です。
ビフィズス菌は乳酸菌と同じように糖をエサにして活動しますが、乳酸のほかに殺菌力の強い酢酸を生成します。大腸でビフィズス菌が活発であれば、酢酸がたくさん作られるため悪玉菌を抑制することができます。
殺菌力の強い酢酸をビフィズス菌が作り出してくれるおかげで、腸内環境を良好に保つことができます。ほかにもビタミンB群、ビタミンK、葉酸などのさまざまなビタミンを合成する働きもします。
このようなことを考えると、健康のためにはいかにしてビフィズス菌を活性化するかが重要になります。

腸内フローラのバランスを整える乳酸菌とビフィズス菌

全体の2割が善玉菌であれば腸の健康を維持できる

健康な成人の腸内では全体の2割が善玉菌です。悪玉菌は1割、日和見菌は残りの7割です。これを見ると善玉菌は小数派に感じられます。
しかし、日和見菌は善玉菌と悪玉菌のどちらか優勢なほうに味方をする性質があるため、善玉菌の数が悪玉菌の数を上回っていれば優勢を保つことができます。
腸の健康を保つためには善玉菌2割を維持する必要があります。便秘や下痢などのお腹の不調で悩んでいる方は、腸内に生息する善玉菌の割合を意識してみましょう。
腸内細菌全てを変える必要はなく、全体の2割を善玉菌にするだけで腸内フローラのバランスが改善されて、健康に繋げることができます。善玉菌の95%以上はビフィズス菌ですから、ビフィズス菌を活性化することが何よりも重要です。
ビフィズス菌が優勢を保っていれば、悪玉菌が増殖することはなく、大多数の日和見菌が悪玉菌に味方をすることもありません。

腸内の善玉菌を増やす乳酸菌とビフィズス菌

加齢などで減少するビフィズス菌を補う必要がある

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そのために摂りたいのが乳酸菌やビフィズス菌です。私たちの腸内にもともと生息している善玉菌、その中でもビフィズス菌は加齢とともに減少していきます。
ほかにも食生活の偏りや強いストレスによって腸内環境が悪化して、結果として悪玉菌の増殖を引き起こしてビフィズス菌の数を減らすことがあります。そこで食事を工夫することで乳酸菌やビフィズス菌を補う必要があります。

食べ物から摂っても腸内で直接増えるわけではない

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とは言っても食べ物から摂った乳酸菌とビフィズス菌が腸内で直接増えるわけではありません。例え生きて腸に届いたとしても長く留まることができず定着できないからです。
そのほとんどは腸内にもともと生息していた常在菌によって、数時間から数日程度で便として排出されます。

腸内の善玉菌を活性化して増殖を促す

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では乳酸菌やビフィズス菌を摂る意味はどこにあるのでしょうか? 一つは生きた菌が生成する乳酸や酢酸です。短期間であってもこれらの酸が腸内で作られることで、善玉菌の活動に適した弱酸性に変える効果が期待できます。「生きて腸に届く」を謳う乳酸菌がこれに当てはまります。
もう一つは死滅してしまった菌の腸内フローラへの貢献です。乳酸菌の中でもとくに動物性乳酸菌は、摂取しても腸に届く前に胃酸や胆汁酸で死滅してしまう性質があります。しかし、近年の研究では胃酸や胆汁酸で死滅してしまった乳酸菌やビフィズス菌にも、一定の整腸効果が期待できることが分かっています。
死滅した菌は腸内で善玉菌のエサとなることで善玉菌を活性化し、増殖を促すことができるとされています。

善玉菌の活動に大きく影響する日和見菌と悪玉菌

日和見菌の存在

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善玉菌と悪玉菌の影に隠れて地味な存在の日和見菌ですが、腸内では圧倒的多数派であり全体の約7割を占めています。日和見菌にはバクテロイデスやユリバクテリウムなどが含まれ、合わせて成人の便から1gあたり数千億個程度が検出されます。
日和見菌という言葉の由来は、医療現場で使われていた「日和見感染」です。善玉菌と悪玉菌という言葉を光岡氏が使い始める前から、健康であれば無害な日和見菌が、病気による免疫力の低下で病原菌化することが知られていました。
日和見感染とは腸から他の臓器に感染を引き起こすことを言います。腸内細菌の研究が進んでいますが、乳酸菌やビフィズス菌、大腸菌やウェルシュ菌に比べると研究は途上であり、まだまだ分からない点も多くあるのが日和見菌です。
いずれにしても、善玉菌と悪玉菌のどちらか優勢なほうに味方する性質を持つ日和見菌を無視することはできないでしょう。

どっちつかずの日和見菌を、善玉菌の味方にするか悪玉菌に加担させてしまうかは、腸内のビフィズス菌が優勢であるかどうかで決まります。
日和見菌は大多数ですがあくまで鍵を握っているのは善玉菌の95%以上を占めるビフィズス菌なのです。ビフィズス菌の数を一定に保つことができれば、どんな日和見菌であっても健康に大きな害を与えることはありません。

ただ善玉菌を増やして悪玉菌を減らせば良いというわけではない

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腸内環境を保つためには善玉菌を活性化させる必要があります。しかし、これは単純に「善玉菌を増やして、悪玉菌をなくせば良い」というものではありません。
腸内にもともと生息している悪玉菌も体にとって必要な存在だからです。例えば大腸菌は増殖すると腸内腐敗を引き起こしますが、一方でビタミンB群やビタミンKを合成したり、感染症を防ぐ良い働きをしています。
ウェルシュ菌は全くといっていいほど良いところが見当たらず、文字通り悪玉的な存在です。それでも腸内細菌のバランスを維持するためには必要な存在です。
乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌がしっかり働くのは、対立関係にあり常に勢力争いをしている悪玉菌が存在するからこそです。

ちょうど良いバランスを保つことが大切

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一般的に腸内細菌は『善玉菌2:悪玉菌1:日和見菌7』の割合が良いとされています。腸内細菌を含めた微生物は共生することで存在しています。
「体に悪いものだから排除すればよい」ではなく、体に有用な善玉菌と体に害を及ぼす悪玉菌はどちらも体に必要なものであり、ちょうど良いバランスを保つことで体の機能を維持しているのです。
乳酸菌やビフィズス菌を摂ることで健康に繋げようとお考えの方は、体に良い善玉菌ばかりに目を向けずに、腸内細菌のバランスも意識しましょう。

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