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植物性乳酸菌は悪玉菌を減らす

増え続ける腸トラブルの原因は腸内環境の悪化

私たちの腸内には500種類以上、100~1000兆個もの腸内細菌が生息しています。これらは善玉菌と悪玉菌、そのどちらにも属さない日和見菌に分かれています。
健康な人の腸内ではビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌が優勢な状態であり、ウェルシュ菌や大腸菌(有毒株)などの悪玉菌を抑制することで腸内環境を良好に保っています。

ライフステージによる腸内細菌の変化

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これらの腸内細菌が、私たちの一生の間でどのようにして変化していくのかというと、母親の胎内にいる赤ちゃんの腸内は無菌であり、授乳が始まると少しずつビフィズス菌が優勢になります。
そして授乳から1週間後には腸内細菌全体の95%をビフィズス菌が占めるようになります。離乳から青年期にかけてビフィズス菌の数は緩やかに減少し、代わってバクテロイデスなどの日和見菌が増えます。
老年期に入るとビフィズス菌の数が大きく減少し、それに伴ってウェルシュ菌などの悪玉菌と大腸菌(無毒株)などの日和見菌の数が増え始めます。そのため腸内環境の悪化は加齢による影響が大きいと考えられてきました。

若い人に増えている大腸がんや腸疾患

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ところが現代人は若い人であっても腸内環境が悪化している人が増えています。これは過労や過度なストレス、食生活の乱れや運動不足などが原因ですが、このような腸内環境の悪化によって増えているのが大腸がんの患者数です。
腸内で悪玉菌が増殖すると、脂肪の分解に使われる胆汁酸を酸化させて二次胆汁酸という発がん性を持つ物質が作られます。さらに肉などに含まれるたんぱく質を分解して、ニトロソアミンという発ガン物質を作り出します。これらが腸内で増えることで大腸がんのリスクを高めてしまうのです。
国立がんセンターがまとめた2016年の大腸がん死亡数を見ると、男性は3位、女性は1位、全体でも2位と高いことが分かります。

大腸がんだけではありません。1960年代にはほとんど見られなかった潰瘍性大腸炎やクローン病が若い人の間で増えています。腸内に炎症を引き起こすことで下痢と腹痛を繰り返すこれらの病気は治療が難しく、国によって特定疾患に指定されています。

厚生労働省が行った2014年の統計によると、潰瘍性大腸炎は約17万人、クローン病は約4万1千人と増加の一途を辿っています。このような大腸がんや腸疾患の増加は現代人の腸内環境が悪化していることを示しています。

日本人の健康を支えてきた植物性乳酸菌

ではなぜ現代の日本人は腸内環境が悪化しているのでしょうか? それは食生活の変化が大きく関係しています。

伝統的な和食には植物性乳酸菌が豊富

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昭和の中頃までは食卓に味噌や醤油を使った料理、漬物類が数多く並んでいました。
植物性乳酸菌は野菜や穀物などの植物や、それらを発酵させた食品に生息しています。和食になくてはならない味噌や醤油、みりんなどの調味料にも植物性乳酸菌が含まれています。
ぬか漬けや柴漬けといった日本の伝統的な漬物は植物性乳酸菌の宝庫です。日本酒や甘酒にも植物性乳酸菌が含まれています。日本人は乳酸菌の存在が知られる遥か昔から、日々の食生活に植物性乳酸菌を取り入れていました。

植物性乳酸菌の特徴

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植物性乳酸菌は、栄養が乏しく他の微生物と共存する必要がある厳しい環境で生き抜いてきたため、生命力が強いのが特徴です。動物性乳酸菌と比べて酸に強い性質を持ち、胃酸や胆汁酸で死滅することなく生きて腸に届きます。
生きた植物性乳酸菌は腸内で乳酸や酢酸などの有機酸を生成して、腸内環境を善玉菌の活動に適した弱酸性に変えてくれます。それによって腸内にもともと住んでいた善玉菌の増殖が促されて、悪玉菌が抑制されます。

ほとんどの動物性乳酸菌は生きて腸に届いたとしても、腸内にもともと住んでいた常在菌に勝つことができずに、数時間から数日程度で便として排出されます。一方、他の微生物と共存することができる植物性乳酸菌は、腸内で長く活動することができ、大量に有機酸を生成するため、より高い整腸作用が期待できます。

食生活の変化が腸内環境に与えた影響とは

食の欧米化によって増える肉類・乳製品の摂取量

ところが昭和の中頃から急速に進んだ食事の欧米化によって、味噌や醤油を使った伝統的な和食、植物性乳酸菌で発酵させた漬物類を口にする機会が知らないうちに減っているのです。
逆に増えたのが豚肉や牛肉などの肉類と牛乳やチーズなどの乳製品です。日本人の平均摂取量の推移は以下の通りです。

日本人の肉類、乳製品摂取量の年次推移(1人1日あたりg)

1955年 1960年 1965年 1970年 1975年 1980年 1990年 2000年 2007年
肉類 12.0 18.7 29.5 42.5 64.2 67.9 71.2 78.2 80.6
乳製品 14.2 32.9 57.4 78.8 103.6 115.2 130.1 127.6 123.9

このように、日本人が摂取する肉類と乳製品の量は、1960年を過ぎたあたりから急激に増え始め、1960年と2007年を比較すると約4倍に増えています。
それによって何が起きたのかと言うと腸内環境の悪化です。

肉類に偏った食事は腸内環境を悪化させる

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食べ物はまず胃で消化されて小腸に送られ、たんぱく質や脂質、炭水化物、アミノ酸などが消化酵素によって分解されて体内に吸収されます。
残った老廃物と水分は大腸に送られて便が形成されます。
ところが肉食に偏った食生活によってたんぱく質や脂質を摂り過ぎると、小腸で分解しきれなかったこれらの栄養素が大腸に送られてしまいます。

悪玉菌は肉類に含まれるたんぱく質と脂質が大好物です。豊富な栄養源を得たことで活発になり腸内で増殖をはじめます。やがて便を腐敗させてアンモニアや硫化水素といった毒素を作り出し、腸内環境をアルカリ性へと変えてしまいます。
悪玉菌によって腸内環境が悪化すると善玉菌の働きが弱くなり、便秘や下痢、お腹の張りといった不調が引き起こされます。さらに発がん性物質が作られることで大腸がんのリスクが高まります。

牛乳からはほとんど乳酸菌を摂れない

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では乳製品の摂取量が増えていることはどうなのでしょうか? 牛乳には動物性乳酸菌が生息しており、これらを発酵させて作るヨーグルトやチーズを食べることで乳酸菌を摂ることができます。

ただし、一般に売られている牛乳は殺菌処理しているため菌が死滅しています。そもそも発酵させていないためほとんど菌を摂ることができません。

ヨーグルトやチーズからなら生きた乳酸菌を摂ることができます。とは言っても昔より食べる機会が増えたとはいえ、毎日のようにヨーグルトやチーズを食べている人は少数です。そのため減った植物性乳酸菌の量を補えていないのが現状です。

近年の研究では死滅した菌にも一定の整腸作用があることが分かっていますが、生きた菌にはその代謝物である乳酸や酢酸によって、より高い整腸作用が期待できます。

減り続ける植物性乳酸菌と食物繊維の摂取量

植物性乳酸菌と食物繊維の摂取量は減っている

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肉類の摂取量の増加と反比例して減っているのが食物繊維の摂取量です。1950年には平均で1日20.5g摂っていましたが、1970年には14.9gと急激に減り、その後は現在に至るまでほぼ横這い状態が続いています。
1950年から70年までのたった20年間で食物繊維の摂取量が2/3まで減少したのは、1960年代に入り日本人の食生活が大きく変化したことを表しています。
食事の欧米化によってパンやパスタ、シチューやハンバーグといった洋食が食卓に上る機会が増えた一方で、煮物、和え物、味噌汁、漬物類といった和食が食卓に上る回数と品数が減ったのです。

これはつまり、食物繊維だけではなく植物性乳酸菌の摂取量も同時に減ったことを意味しています。野菜や穀物に含まれる食物繊維は腸内で善玉菌のエサとなります。ですから植物性乳酸菌と食物繊維を同時に摂れる日本の伝統的な漬物は理に適っています。

ところが肉類の摂取量が増えたのに植物性乳酸菌と食物繊維の摂取量が減ると、腸内で悪玉菌が増殖しやすくなり腸内環境を悪化させてしまいます。

植物性乳酸菌は日本人の腸内環境に適している

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1950年代以前の日本人は動物性乳酸菌をほとんど摂取せず、味噌や醤油、漬物などに含まれる植物性乳酸菌を摂ることで腸内環境を維持していました。
この頃は大腸がんの死亡者数が今よりもずっと少なかったため、日本人の腸内環境も今より良かったと考えられています。また今とは違って肉類や乳製品が食卓に上がる機会が少なく、野菜や穀物中心の食生活であり、植物性乳酸菌で発酵させた食品が多かったと言われています。

ところが1970年代から動物性乳酸菌の摂取量が増えているのに対して、植物性乳酸菌の摂取量は1980年頃から急速に減少し、その傾向はいまだに止まっていません。
植物性乳酸菌と動物性乳酸菌は両方とも体にとって有益であり、一概にどちらが優れているとは言えません。しかし、日本の食生活の変化と大腸がんなどの腸疾患の増加を見ると、植物性乳酸菌のほうが日本人の腸内環境に合っている可能性があります。

悪玉菌を減らすためには食生活の改善が必要

では腸内環境を改善するためには何が必要なのでしょうか? 知らず知らずのうちに植物性乳酸菌を摂る機会が減少し、野菜不足によって食物繊維の摂取量が足りない現代人にまず必要なのが食生活の改善です。

肉類を控えて野菜や穀物を摂る

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肉食中心の食生活は悪玉菌の増殖に繋がるため、野菜と穀物中心の食生活に切り替えましょう。東京大学名誉教授の光岡知足氏は「特に赤身の肉が悪玉菌による腐敗を招く」と言います。

慢性的な便秘に悩まされている方、おならや便の臭いがきつい方は肉類の食べ過ぎによって腸内で悪玉菌が増殖している可能性があります。肉を食べてはいけないということはありませんが、肉類を食べる頻度を週1~2回程度に抑えましょう。
肉類を食べる回数を減らして野菜や穀物から食物繊維をたくさん摂ることで、腸内の善玉菌を活性化して悪玉菌を減らし、お通じを改善することができます。

厚生労働省は「日本人の食事摂取基準」で食物繊維の目標摂取量を1日あたり男性は20g以上、女性は18g以上と定めています。また1日に350g以上の野菜を摂ることを推奨しています。

1日の摂取カロリーを見直す

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カロリーの摂り過ぎも問題です。若い頃は体を動かす機会が多いためカロリーを多めにとってもそれほど問題はありませんが、30歳を過ぎると基礎代謝が低下し運動量も落ちていきます。
それにも関わらず近年では30代から50代までの1日の摂取カロリーが増加傾向にあります。消費カロリーが減っているのに摂取カロリーが増えると、余分な脂質やたんぱく質が大腸に届いて悪玉菌のエサとなってしまいます。激しい運動を行わない場合、成人1日あたりの摂取カロリーは1800~2200kcalが目安です。
野菜や穀物から食物繊維をたっぷり摂り、1日の摂取カロリーを守ることで、腸内の善玉菌の増殖を促して悪玉菌を減らすことができます。

植物性乳酸菌が摂れる日本の伝統的な発酵食品を見直そう

いま日本では伝統的な和食を見直そうという機運が高まっています。
乳酸菌は、これまではヨーグルトなどの乳製品から摂るものというイメージが一般的でした。
それが植物性乳酸菌の存在が世間に認知され、その優れた健康効果が注目されるようになると、日本の伝統的な発酵食品にも植物性乳酸菌が含まれていることが広く知られるようになります。

植物性乳酸菌が豊富な漬物

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日本各地で伝統的に食べられている漬物には植物性乳酸菌が豊富に含まれています。ぬか漬けやたくあん、柴漬けなどが有名ですが、京都ではすぐき菜を漬けた「すぐき漬け」、長野では野沢菜漬けや木曽地方で伝統的に食べられている「すんき漬け」など全国各地に乳酸発酵させた漬物があります。
その中でもすぐき漬けから発見されたラブレ菌は植物性乳酸菌の中でも特に生残率が高く、優れた整腸作用と免疫力を高める作用が認められています。

漬物はヨーグルトなどのように糖分や脂質を含まず、食物繊維を同時に摂ることができます。とはいえ塩分を含んでいることをお忘れなく。塩分摂取量が気になる方には塩を一切使わない長野のすんき漬けがおすすめです。

味噌や醤油にも乳酸菌が含まれる

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味噌や醤油にも植物性乳酸菌が含まれています。しかし、一般的には製造段階で火入れを行うため菌が死滅しています。
近年の研究では死滅した乳酸菌にも一定の整腸作用があることが分かっていますが、生きた乳酸菌にこだわる方は加熱処理しない生味噌や生醤油がおすすめです。

植物性乳酸菌は習慣的に摂り入れよう

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菌活という言葉がありますが、日々の食生活に植物性乳酸菌を取り入れて、腸内の善玉菌を活性化して悪玉菌を減らしましょう。
ただし、いかに生命力の強い植物性乳酸菌といえども、腸内で活動できる期間には限りがあります。腸内環境を改善するためには習慣的に取り入れる必要があります。

まずは1日のメニューを見直して、朝食はパン派という人はご飯に変えて味噌汁と漬物をつけましょう。塩分摂取を抑えるために間食や昼食にはヨーグルトやチーズなどの乳製品から動物性乳酸菌を、サラダや野菜ジュースから食物繊維を摂ります。
そして夕食は和食を基本とし味噌汁と漬物、醤油やみりんで調味した煮物などをメニューに加えます。

日本人が昔から食べてきた伝統的な食事に戻すだけで植物性乳酸菌をしっかり摂ることができます。腸内環境の悪化が気になる方はぜひ取り組んでみてください。

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