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乳酸菌でインターフェロンを産生

インターフェロンとは

ウイルス増殖を抑制するたんぱく質の一種

インターフェロンは、病原体や腫瘍細胞など体に害を及ぼす異物の侵入に反応して、ウイルスに感染した細胞や腫瘍細胞で作られるたんぱく質の一種です。
1954年に、伝染病研究所所長を務めていた長野泰一と小島保彦によって、「ウイルス干渉因子」として発見され、1957年には、イギリスのウイルス学者アリック・アイザックスらによってウイルス増殖を抑制する因子であることが確認され、ウイルス干渉現象を意味するインターフェロンと命名されました。
1980年代には、悪性腫瘍を抑制する効果があることが発見され、抗がん剤として活用されるようになります。
私たちの体はウイルスや細菌などの病原体が体内に侵入してきたときに、ウイルスに対抗する力を高めることで防御する免疫システムが備わっています。
しかしいくら体内の免疫システムが優秀であっても、侵入してきた病原体の情報を各免疫細胞に伝え、攻撃して無力化するまでにはある程度の時間が必要です。インターフェロンは防御体制ができるまでに病原体が増殖しないようにする役目を果たしています。

インターフェロンの働き

インターフェロンには作られた細胞と同種の細胞に作用する性質があります。ウイルスのたんぱく質合成を防ぎ、ウイルスの遺伝子を切断する物質や、抗ウイルスタンパク酵素の合成を誘導することで、間接的にウイルスが増殖するのを防ぎます。
ほかにも腫瘍細胞の増殖抑制、免疫反応の調整、炎症を抑える働きをします。インターフェロンは体内で分泌されるほか、ウイルス性肝炎などの抗ウイルス薬や、多発性骨髄腫などの抗がん剤として活用されています。

インターフェロンの種類

インターフェロンは大きく分けてα、β、γの3種類に分類されています。α型はヒトリンパ球で、β型はヒト線維芽細胞から作られます。両方とも遺伝子工学の手法を使って、インターフェロン遺伝子を組み込んだ染色体外性遺伝子を持つ大腸菌からも大量生産が可能です。

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インターフェロン-α

腫瘍細胞に直接作用することで、または免疫細胞を活性化することで腫瘍細胞に対する抵抗力を高め、間接的に腫瘍細胞を抑え込む働きがあります。悪性腫瘍を治療する効果があることから慢性骨髄性白血病、多発性骨髄腫への有効性が認められていて、最も多くの製剤に使われているインターフェロンです。

ウイルスの増殖を抑える働きもあり、タンパク合成を防ぐことで酵素を誘導してウイルスの増殖を抑え、免疫細胞を活性化することで間接的にウイルスに対する抵抗力を高める作用も認められています。このためC型肝炎の治療に使われています。

また、インターフェロン-αは、白血球の10~20%を占め、体内をパトロールしてウイルスに感染した細胞を発見して攻撃し、腫瘍細胞を融解して除去するNK(ナチュラルキラー)細胞を活性化させてくれます。
体内でインターフェロンの分泌が促され、NK細胞が活性化することでインフルエンザウイルスの感染を防ぐことができるため、インフルエンザ予防にも効果が期待されています。

インターフェロン-β

腫瘍細胞の増殖を直接的、または間接的に抑制する働きがあります。

直接作用としては腫瘍細胞の表面に結合することで、腫瘍細胞が分裂するのを阻止し、DNAの合成に使われるアミノ酸が取り込まれるのを防ぐことで、増殖を抑えると考えられています。

間接的な作用としては、免疫細胞を活性化することで免疫力を高めて、腫瘍細胞を攻撃するとされています。ほかにも抗ウイルス作用も認められていて、たんぱく合成を防ぐことでウイルスの増殖を防ぐことが分かっています。

体内では小腸の樹状細胞が活性化することで産生されるインターフェロンであり、抗炎症作用を高めてくれます。樹状細胞は侵入してきたウイルスや細菌に対して免疫反応を促し、体内で作られた抗体に対しては攻撃しないように免疫反応を調整しています。

インターフェロン-γ

がん細胞の増殖を抑制し、免疫細胞を活性化することでがん細胞に対する抵抗力を高める働きがあるほか、抗ウイルス作用や抗腫瘍細胞も期待されています。
免疫細胞の一つであるヘルパーT細胞が分泌するインターフェロンであり、体内に侵入した細菌やウイルスを捕らえて消化するマクロファージや、NK細胞を活性化する働きがあります。

インターフェロン-βの分泌を促す乳酸菌

腫瘍細胞やウイルスの増殖を抑制してくれるインターフェロンを体内で産生するように促すことができれば、インターフェロン製剤に頼ることなく免疫力を高めて病気予防に繋げることができます。

そこで期待されているのが乳酸菌です。安全性が高く、ヨーグルトなどのさまざまな発酵食品に応用しやすいことから、食品・医薬品業界からも常に注目されています。

乳酸菌と言えば腸内環境を整えてくれる整腸作用が有名ですが、免疫力を高める働きも多数報告されていて、風邪やインフルエンザ、アレルギー症状など、さまざまな免疫疾患への効果が期待されています。
従来の研究では乳酸菌の免疫活性化メカニズムについて不明な点が多くありました。しかし近年の研究では乳酸菌にはインターフェロンの分泌を促す作用があることが明らかになっています。

乳酸菌がインターフェロン-βの分泌を促進する仕組み

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2013年6月、産業技術総合研究所(産総研)は、乳酸菌が腸管免疫を活性化する新たなメカニズムを発見したことを発表しました。この研究成果については米科学誌「Immunity」にオンライン掲載されています。
産総研は、乳酸菌が持つ「二重鎖RNA」(※1)は、小腸にある樹状細胞(※2)に取り込まれると、免疫反応に関するたんぱく質であるトル様受容体3(TLR3)を刺激し、樹状細胞によってインターフェロン-βが産生されるのを促す仕組みを解明しました。乳酸菌によってインターフェロン-βが分泌されると、ウイルスや免疫細胞の増殖を抑制し、抗炎症作用によって腸炎などを予防することが確認されています。

(※1) 互いに補い合う2本の配列を持つRNAが結合し、DNAのように二重らせんを形成したもの
(※2)小腸にある免疫細胞の一つで病原体や微生物を認識して免疫反応を行う

7割の乳酸菌が性質を持つ

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また、腸管免疫にも直接関与するため、腸の健康を保つ重要な役割を果たしていることも分かりました。このような性質を持つ細菌は2013年6月時点では乳酸菌以外には発見されていないとのことです。

乳酸菌全てがこの性質を持つわけではありませんが、小腸から分離された乳酸菌とプロバイオティクス乳酸菌を調べた結果、約7割の乳酸菌が持つ性質であることが分かり、免疫細胞から多量のインターフェロン-βの分泌を促すことが確認されました。

KK221株を使った動物実験

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さらにプロバイオティクス乳酸菌のうち、二重鎖RNAを多数持つテトラジェノコッカス・ハロフィラスKK221株をモデル株として使って、インターフェロン-βがどのように働くか解析しました。
その結果、乳酸菌によって作られるインターフェロン-βによって強い抗炎症作用が働き、動物実験ではDSS(デキストラン硫酸ナトリウム)誘発潰瘍性大腸炎を予防する効果があることが確認されました

このような乳酸菌特有の免疫力増強メカニズムが明らかになったことで、今後は予防医学分野への活用が期待されています。

インターフェロン-γの分泌を促すOLL1073R-1株

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明治乳業が保有するOLL1073R-1株はR-1乳酸菌とも呼ばれ、風邪やインフルエンザの感染リスクを軽減する効果があることで知られています。
これまでの研究ではNK細胞を活性化することで免疫力を増強することが認められています。そこで明治乳業とフランスのパスツール研究所は、免疫増強作用のメカニズムについて解明するために共同研究を行いました。

EPSがインターフェロン-γの分泌を促進

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その研究結果によると、OLL1073R-1株が産生するEPSと呼ばれる多糖体が、インターフェロン-γの分泌を、免疫細胞であるCD4Tαβ細胞、CD8Tαβ細胞などのさまざまなT細胞に促すことが分かりました。
マウスを使った試験では、OLL1073R-1株によって作られたEPSまたは蒸留水を摂取させ、腸管のCD4Tαβ細胞、CD8Tαβ細胞においてインターフェロン-γの割合を調べました。その結果、EPSを摂取させたマウスはインターフェロン-γの割合が高いことが確認されました。

免疫に対して幅広く働く

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EPSは免疫調整など多くの健康効果を持つことが知られていますが、今回の研究では免疫細胞を活性化させるだけでなく、T細胞に作用することでインターフェロン-γを分泌させ、免疫に対する広い働きが持つことが示されました。

この幅広い作用によって、これまでの研究で認められている、風邪やインフルエンザの感染リスク軽減や、アレルギー物質が腸に入ったときに腸壁から侵入するのを防ぐIgA抗体の分泌を促す作用などと関係していることが推定できます。

インターフェロン-αを産生するラブレ菌

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ラブレ菌は岸田綱太郎博士によって京都の伝統的な漬物である「すぐき漬け」から発見された植物性乳酸菌です。酸に強いため胃酸や胆汁で死滅することなく生きて腸まで届くプロバイオディクスの乳酸菌です。
その強い生命力から腸内に長く留まることができ、生残率はトップクラスを誇っています。そんなラブレ菌は多糖のEPSを多量に分泌する性質があり、このおかげで消化液に対して強い耐性を持っていると考えられています。

インターフェロン-αの産生を促す

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さらに近年の研究ではラブレ菌には免疫力を高める働きがあり、腸内でリンパ球を刺激することでインターフェロン-αの産生を促すことが分かっています。
ラブレ菌によって作られたインターフェロン-αはNK細胞を活性化し、がん細胞やウイルスに感染した細胞を無力化するため、感染症やがんを予防する効果が期待されています。インターフェロン-αそのものにも抗ウイルス作用と抗がん作用が認められていて、免疫力の増強に貢献すると考えられています。

インフルエンザに対する効果を調べたマウスを使った試験

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このようなラブレ菌の働きによって、インフルエンザウイルスに対して防御効果を発揮することがマウスを使った試験で明らかになり、日本食品免疫学界で報告されました。
ラブレ菌を14日間摂取させたマウスをインフルエンザウイルスに感染させると、体重減少と健康状態を数値化したスコアが摂取していないマウスと比べて改善することが確認されました。
またラブレ菌を摂取させたマウスは血中のインターフェロン-α量が摂取していないマウスよりも高いことも分かりました。

生菌、死菌どちらでも効果を確認

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ほかにもマウスを使った試験では、生菌のラブレ菌、殺菌したラブレ菌、偽薬のいずれかを7日間投与し、その後にインフルエンザウイルスに感染させ、さらに3日後に気道洗浄液中のウイルス量を調べました。
その結果、生菌と殺菌どちらのラブレ菌を摂取したマウスも偽薬を摂ったマウスと比較して、インフルエンザ感染後のウイルス量が低下することが確認されました。

このような試験結果からラブレ菌にはインターフェロン-αの産生を促すことで免疫力を高める作用があり、インフルエンザの症状を緩和する効果があると考えられています。

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