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乳酸菌と胃酸

乳酸菌は胃酸に弱い

ヨーグルトなどから摂ることの出来る乳酸菌は腸内環境を整え、便秘や下痢などを解消できるほか、風邪やインフルエンザを予防できたり、美肌効果が得られたりとさまざまな健康効果が期待できる成分です。
日本でも健康志向の高まりとともに乳酸菌を習慣的に摂っている方が増えています。しかし、残念ながら乳酸菌の多くは酸に弱い性質があり、食べ物から摂ってもその多くは胃酸で死滅してしまいます。毎日のように乳酸菌を摂り続けても生きて腸まで届けることは簡単ではありません。
私たちの胃は食べ物を消化するために、pH1.0~1.5という強酸性の胃液が分泌されています。そのためヨーグルトに使われるブルガリア菌やビフィズス菌をはじめ、酸に耐性を持たない乳酸菌はその多くが胃を通過することが出来ないのです。

実験から分かった乳酸菌の胃酸に対する耐性

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【実験内容】和洋女子大学家政学部の山田満教授と山本真弓助手は、乳酸菌がどれだけ胃酸に耐えられるのかを調べる目的で、人工胃液に最大120分漬ける実験を行いました。

検体として選ばれたのは、市販の乳酸菌製剤8種類(内訳はビフィズス菌製剤が3種類、その他の乳酸菌製剤5種類)、市販の発酵乳、乳酸菌飲料11種類(内訳はビフィズス菌を使用した製品4種類、その他の乳酸菌製品7種類)、乳酸菌種3種類(内訳は乳酸桿菌1菌種、連鎖球菌2菌種)です。

【実験結果】
・ビフィズス菌製剤
実験の結果、ビフィズス菌製剤は3種類ともにどのpHでも60分以上生存することができず、特に2種類はpH1~2で全く生存できませんでした。
残りの1種類も30分までは一定の菌数を維持していましたが、60分以上生存することはできませんでした。

・乳酸菌製剤
一方、そのほかの乳酸菌製剤は5種類ともpH1では生存できませんでしたが、pH2では3種類が120分生存することが確認されました。

・発酵乳と乳酸菌飲料
発酵乳と乳酸菌飲料9種類では、ビフィズス菌製品4種類全てがpH1では全く生存することができませんでした。

・乳酸菌製品
一方、その他の乳酸菌製品7種類もpH1で60分以上生存するものはありませんでしたが、pH2で生存するものが5種類認められ、残りの2種類はpH2では全く生存できませんでした。

・乳酸菌種3種類
ラクトバチルス・アシドフィルス菌、ラクトバチルス・カゼイ菌、ストレプトコッカス・サーモフィラス菌の3菌種では、サーモフィラス菌のみがpH1に漬けた直後は生存していましたが、30分以上生存することはできませんでした。他の2菌種はpH1では全く生存できませんでした。
pH2~4では3菌種ともに生存可能であり、アシドフィルス菌は86%、カゼイ菌は40%が生存できました。

【ビフィズス菌とその他の菌の比較】
ビフィズス菌とそれ以外の菌の比較では、ビフィズス菌は特に胃酸に弱く、pH1の強酸性の胃酸には全く耐えることができず、pH2でも生存率は0%で、pH4で43%が120分後まで生存することが確認されました。
一方、その他の乳酸菌もpH1では長く生存することができませんでした。pH2では120分後まで生き残っているものが多く、その生存率は73%でした。pH3~4では全ての菌種が生存することが確認されました。

【考察】
食べ物が胃を通過する時間は量と質によって異なりますが、消化の早い糖質でも2~3時間かかります。どのpHでも60分以上生存できないビフィズス菌は、胃でほとんどが死滅してしまいますが、その他の乳酸菌はある程度の胃酸には耐えることができることから、胃酸が弱くなる食後すぐに摂取することで、一定の菌数を保ったまま胃を通過させることが可能であると推定できます。

胃を通過して生きて腸まで届ける方法

ではどうしたら胃を通過して生きて腸まで届けることができるのでしょうか? 主に以下のような方法があります。

大量に摂る

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乳酸菌が胃酸に弱いとは言っても、全ての菌が胃で死滅してしまうわけではなく、一部の菌は生きて腸まで届きます。そこでとにかく大量に乳酸菌を摂ることで、少しでも多くの菌を腸まで届けようという考え方です。

乳酸菌そのものには副作用がないため大量に摂取しても特にデメリットはありません。
ただし食品からの摂取では、カロリーや脂質、糖質、塩分を摂りすぎてしまいます。
ヨーグルトの場合は一日に何kgも食べることは現実的ではありません。
またお腹の弱い方は、ヨーグルトに含まれる乳糖を大量に摂ることで下痢などを引き起こす場合もあります。
しかし、カロリーや糖質を含まないサプリメントであればその心配もありませんし、1粒に数百億個もの大量の乳酸菌が含まれているため、習慣的に多くの乳酸菌を摂ることが可能です。

満腹時に摂る

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成人の胃酸はpH1.0~1.5という強酸性ですが、食事や時間によって変わります。空腹時にはpH2.0以下まで低下し、耐酸性の細菌しか存在することはできませんが、食後はpH4~5まで上昇し弱酸性に近くなり、食後2~3時間経つと空腹時の状態に戻ります。
このことから空腹時を避けて、満腹になった食後に乳酸菌を摂ることで、多くの菌を胃を通過させ生きて腸まで届けることができます。

胃酸に強い乳酸菌を摂る

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多くの乳酸菌は酸に弱い性質がありますが、中には酸耐性を持ち、強酸性の胃酸でもほとんど死滅することなく生きて腸まで届く乳酸菌もあります。
大量に摂る必要もないため、摂りやすく続けやすいのがメリットです。とはいえ、全く胃酸で死滅しないわけではなく、種類によって差はありますが、やはりある程度は胃を通過できずに死んでしまいます。
あくまで酸に耐性を持たない乳酸菌よりは生きて腸まで届く可能性が高いと考えましょう。
胃酸に強い乳酸菌は後ほど詳しく紹介します。

乳酸菌カプセルを摂る

乳酸菌サプリメントの中には、耐酸性のカプセルを採用し、胃酸や胆汁酸から守る工夫がされている場合があります。このようなサプリメントであれば、酸に弱い乳酸菌であっても生きて腸まで届けることができます。

胃酸に強い植物性乳酸菌

生命力の強い植物性乳酸菌

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大量に乳酸菌を摂っても生きて腸まで届くのはほんの一部です。そこで摂りたいのが胃酸や胆汁酸に強い植物性乳酸菌です。このような生きて腸まで届く微生物のことをプロバイオティクスと言います。

乳酸菌には動物由来の動物性乳酸菌と、植物由来の植物性乳酸菌がありますが、動物性乳酸菌が酸に弱いのに対して、野菜や穀物などの植物や、それらを発酵させて作る漬物などの食品に生息する植物性乳酸菌は、過酷な環境下で生き抜くために酸に強い性質を備えています。

とはいえ、いくら酸に強いといっても全ての菌が胃酸を通過して腸まで辿りつくわけではなく、ある程度の菌は胃酸で死滅してしまいます。
ただし生命力がとても強い植物性乳酸菌は、他の微生物とも共存することができるため、比較的長く腸内に留まることができます。

植物性乳酸菌が摂れる発酵食品とは

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植物性乳酸菌は、ぬか漬け、すぐき漬け、キムチなどの乳酸発酵させて作る漬物、ラブレ菌などの植物由来の菌株を使用したヨーグルトなどの乳製品やサプリメントから摂ることができます。
ただし、酸には強い植物性乳酸菌も熱にはそれほど強くないため、60℃以上に加熱しすぎると死滅してしまいます。加熱せずに生で摂るようにしましょう。

胃酸で死滅した乳酸菌にも効果がある

乳酸菌は生きて腸まで届くことで、乳酸を作り出し腸内環境を善玉菌の活動に適した弱酸性に変えることができます。生きた乳酸菌のほうがより高い効果が期待できるわけですが、死んだ乳酸菌には全く効果がないかと言えばそうではありません。
例え胃酸で死滅してしまったとしても、死骸となって腸まで届き、善玉菌のエサとなることで増殖を助けてくれます。
腸内に住む善玉菌もエサがないと充分な活動ができません。もともと住んでいる善玉菌に栄養源を供給することは、腸内環境を整えるうえでは大切なことで、その意味で死んだ乳酸菌にも一定の効果が期待できます。

胃酸への耐性が認められた乳酸菌の種類

以下の乳酸菌は胃酸への耐性が認められています。

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・OLL2716株
LG21乳酸菌の名前で知られる明治乳業が保有するラクトバチルス属ガセリ種の菌株です。ピロリ菌に対する効果で知られる乳酸菌ですが、強い耐酸性を持ち、胃酸に負けずに粘膜にくっついてピロリ菌を抑制します。

・L-55株
乳幼児の腸内から分離されたラクトバチルス属アシドフィルス種の菌株で、オハヨー乳業が2000年に発見しました。酸に対して強い耐性を持ち、胃酸にも負けずに生きて腸まで届き長く定着します。高い整腸作用と花粉症やアトピー性皮膚炎を改善する効果が認められています。

・LGG菌
1985年にヒトの腸内から発見された乳酸菌です。世界で最も研究が進んでいる乳酸菌の一つで、2016年時点では世界50ヶ国以上でプロバイオティクスの乳酸菌として利用されています。
LGG菌は優れた耐酸性を持ち、胃酸や胆汁酸に負けずに、その多くが生きて腸まで届き長く留まります。LGG菌は子どものアトピー性皮膚炎発症率を下げる効果、花粉症の鼻づまりを軽減する効果、インフルエンザを予防する効果などが認められています。

・HSK201株
ラクトバチルス属プランタラム種の菌株で、ザワークラウトから分離した植物性乳酸菌です。日本ルナと日本ハム中央研究所が2000株以上の乳酸菌の中から選び出しました。
酸にとても強く、胃液に対する強い耐性を持つことから、生きて腸まで届き長く留まります。人工胃液に2時間漬ける実験では、80%以上もの高い生存率が確認されました。HSK201株は花粉症などのアレルギー症状を改善する作用が認められています。

・ラブレ菌
京都の伝統的な漬物「すぐき漬け」から発見された植物性乳酸菌です。EPSと呼ばれる粘り気のある多糖成分を分泌する性質を持ち、消化液に強く胃酸に負けずに生きて腸まで届きます。
その生命力の強さは植物性乳酸菌の中でもトップクラスで、長く腸内に留まります。ラブレ菌は高い整腸作用と免疫力を高める作用が認められています。

・Bb-12株
1985年に発見されたビフィズス菌で、デンマークのクリスチャン・ハンセン社が保有しています。一般的にビフィズス菌は酸に弱いため、pH4以下の強い酸性では生存できず、生きて腸まで届けることが困難でしたが、Bb-12株はpH2.0という強酸性でも半数以上の乳酸菌が1.5時間生存できることが認められ、生きて腸まで届く可能性が高い菌です。免疫力を高める作用が認められています。

・ラクリス菌
1949年に緑麦芽から発見された植物性乳酸菌で、胞子を形成することから有胞子性乳酸菌と呼ばれ、従来の乳酸菌にはない性質を持っています。
胞子によって守られることで酸や熱に対して強い耐性を持ち、腸内で発芽することで増殖し、その間に大量の乳酸を生成します。pH2.0の人工胃液に120分漬けてもその多くは生存しました。高い整腸作用のほか花粉症を改善する効果が認められています。

・HOKKAIDO株
北海道内の家庭で作られている漬物から分離したラクトバチルス属プランタラム種の植物性乳酸菌です。消化液耐性を持ち、胃酸などで死滅することなく生きて腸まで届くプロバイオティクスの乳酸菌です。
高い整腸作用のほか、病原性大腸菌O-157の増殖を抑制し、免疫バランスを改善する効果が期待されています。

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