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日本人と植物性乳酸菌の関わり

日本の食文化に根付いた植物性乳酸菌

世界有数の発酵大国である日本では、味噌や醤油、漬物、酢、日本酒、なれずしなど多種多様な発酵食品を見ることができます。
そしてこれらの発酵食品作りに欠かせないのが微生物です。日本の発酵食品の大きな特徴は、植物性乳酸菌が関与した発酵食品や伝統食の多さにあります。
その中でも野菜や穀物の表面、漬物や日本酒を漬け込む蔵の中に生息する植物性乳酸菌は、日本人にとって最も身近な微生物の一つです。私たちは乳酸菌の存在が知られる遥かに前から、植物性乳酸菌を発酵食品作りに利用してきました。
日本で古くから発酵食品作りが普及した理由としては、海に囲まれていて魚と塩が手に入りやすく、保存する必要があったこと、古くから農耕が盛んに行われ米や野菜が豊富に採れたことが挙げられます 日本人にとって身近な食材である魚、穀物や野菜をどうしたらおいしさを保ったまま保存できるのかと、先人たちが工夫した末に辿りついたのが、微生物による発酵だったのです。

日本の発酵食品の特徴と歴史

出汁

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日本の食文化で忘れてはいけないものは「出汁」です。なぜ日本人が発酵食品を頻繁に口にするようになったのかは、この出汁の存在なしには説明できません。
日本の食文化になくてはならない「旨み」は出汁によって作られます。食事に旨みが足りないと塩分を控えた発酵食品では物足りなく感じてしまいます。
この旨みを作る出汁と言えば、かつお節と昆布の組み合わせが最もポピュラーです。他にも煮干しや椎茸なども使われています。
その中でもかつお節は日本独特の発酵食品で、アスペルギルス・グラウカスやアスペルギルス・レぺンスという麹菌の一種によって作られます。
かつお節は、燻して乾燥させた鰹にカビを付着させて発酵させますが、日本で作られるようになったのは、江戸時代の1674年頃とされています。

漬物

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次に日本の発酵食品として挙げたいのが漬物です。日本人は古くから大根やかぶ、きゅうりやなすといった野菜をぬかなどで漬け込んで保存食としてきました。
旬の一番おいしい時期に収穫した野菜を一年中いつでも味わいたいという、日本人の食に対するこだわりが漬物文化を発展させたとも言えます。

全国各地で作られている個性的な漬物の起源を辿ると、奈良時代に作られていた「瓜の塩漬け」に行き着きます。
漬物は日本の食文化の発信地である京都でまず作られ、平安時代には大まかな形が作られて全国各地に普及しました。
平安時代にまとめられた「延喜式」には酢漬けや醤漬け、ぬか漬けなどが記録されていて、漬物文化の歴史の長さを物語っています。
漬物は主に乳酸菌と酵母菌によって作られます。中には発酵させずに調味液に漬け込んだだけのものもありますが、多くは乳酸菌によって発酵させています。
植物性乳酸菌は常温でも発酵し、10℃以下の低温でも少しずつ発酵するため、地域によって気候の変化の激しい日本の風土と相性の良い微生物です。
乳酸発酵させた漬物としては、京都のすぐき漬けや柴漬け、長野の野沢菜漬けやすんき漬け、広島の広島菜漬け、そして日本全国で作られているぬか漬けや沢庵などがあります。

味噌

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日本の伝統的な調味料である味噌は麹菌、乳酸菌、酵母菌によって作られています。味噌は醤油よりも歴史が長く、その起源は701年の「大宝令」に未醤という字が登場し、これが転じて味噌になったとされています。
味噌には豆味噌、米味噌、麦味噌などの種類がありますが、その中でも米や麦の麹を一切使わずに作る豆味噌は、原料の大豆に麹を直に生やして塩と一緒に漬け込みます。
そのため醸造期間が長く、その間に乳酸発酵が十分に進むため、乳酸菌を豊富に含んでいます。
味噌は栄養価の高さによって日本人の健康を支えてきました。昔の日本人は肉や乳製品をほとんど口にすることがなく、穀物からたんぱく質を補給していましたが、味噌には麦味噌で10%、米味噌には18%ものたんぱく質が含まれています。

醤油

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醤油は中国や東南アジアを起源とし、日本に伝わったのはおよそ2000年前の弥生時代から大和時代の間と言われています。平安時代に現在の形の醤油が一般的になりました。醤油は麹菌、乳酸菌、酵母菌が順番に働いて発酵が進んでいきます。

日本人の食生活の変化と植物性乳酸菌の摂取量の関係

この150年で日本人の食生活に何が起きているのか

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私たち日本人には穀物と野菜を中心とした食文化が根付いていました。1950年代までは肉類や乳製品を口にする機会がいまよりずっと少なかったのです。カロリーやたんぱく質は肉や魚ではなく、穀物や豆類から摂っていました。
ところが1960年代に入って急速に進んだ、いわゆる食事の欧米化によって、日本人の食生活は大きく様変わりします。

そのきっかけは、明治維新によって西洋から食文化が持ち込まれたことによる「肉食の解禁」です。肉食を禁忌とされてきた日本では江戸時代まで、肉類を口にする機会がほとんどありませんでした。
それが明治に入り日本人が西洋文化に触発されると、明治3年に福沢諭吉が「肉食主義」を書いたことの影響もあり、牛肉に対する関心が高まります。
明治4年には牛鍋が大流行し、明治5年には明治天皇が牛肉を試食しています。明治政府が大々的に肉食を推奨した影響で、庶民の間にも肉を食べる習慣が広がっていきます。
とは言っても1950年前後までは、肉類を頻繁に口にすることができたのは、都市部に暮らす富裕層など限られた人たちだけでした。日本全体では肉類、乳製品の摂取量はそれほど多くなかったのです。

ところが1960年代に入ると肉類の消費量が大幅に伸びはじめ、現在に至るまで増加の一途を辿っています。
これはアメリカやイギリスの食文化が日本にも広く普及したのと、日本が戦争から復興を遂げて、急速な経済成長によって国民全体が豊かになったためです。
また、ヨーグルトは1950年に本格的に製造が開始され、1960~1970年に本格的に普及しました。乳製品が身近になったことも日本人の食生活を大きく変えました。

1日の献立にも大きな変化が

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この流れの中で日本人の1日の献立も大きく変化しました。まず大正末期から昭和初期の一般的な献立を見てみましょう。

大正末期から昭和初期にかけての1日の献立

朝食
ご飯、わかめの味噌汁、海苔佃煮、かぶ漬け、大根漬け
昼食
ご飯、いわしの丸干し、海苔佃煮、ふき煮物
夕食
ご飯、豆腐と三つ葉のおつゆ、さわらの塩焼き、ねぎとわかめの酢味噌和え、ひたし大豆、大根の浅漬け
間食
さくら餅、草餅

明治から昭和初期までの一般的な日本人は、米や麦といった主食を摂る量が特に多く、副食は少なめであり、植物性乳酸菌を含む味噌や醤油、漬物といった食品が多く含まれていました。
また、庶民の献立に肉類と乳製品が上がる機会がいまよりもずっと少なく、穀物と野菜中心の食生活を送っていました。

では、現代の献立にはどのようなメニューが見られるのでしょうか。一般的な現代人の1日の献立を見てみましょう。

現代の食事の一例

朝食
クロワッサン、ドーナッツ、ベーコンエッグ、サラダ、ポタージュスープ、コーヒー
昼食
ざるそば
夕食
ご飯、豚カツ、千切りキャベツ、ポテトサラダ、豆腐の味噌汁、漬物
間食
コーヒー

こうしてみると野菜と植物性乳酸菌の摂取量の少なさが目立ちます。植物性乳酸菌は味噌汁と漬物でなんとか摂っている状態です。さらに洋食を食べる機会が増えたことで、動物性たんぱく質と油脂類の摂取量が多いのも特徴的です。

植物性乳酸菌の摂取量が減り続けている

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このような食事の欧米化と密接に関係しているのが、日本人の植物性乳酸菌の摂取量です。「乳酸菌の摂取量の推移」を見ると、1955年頃から1990年頃まで植物性乳酸菌の摂取量が急激に減少しています。
一方、動物性乳酸菌は1970年頃から現在に至るまで右肩上がりの上昇カーブを描いています。1960年代には植物性乳酸菌の摂取量が圧倒的に多く、動物性乳酸菌の摂取量を大きく上回っていました。
ところが1990年頃になると逆転し、植物性乳酸菌の摂取量の減少はいまでも歯止めがかかっていません。
1950年代までの日本人の大半は動物性乳酸菌をほとんど摂取しておらず、漬物などから植物性乳酸菌をたくさん摂ることで腸内環境を良好に保っていたのです。

大腸がんや腸疾患の増加に見る日本人の腸内環境の悪化

増え続ける大腸がんと腸疾患

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1960年代からはじまった食事の欧米化によって、いま日本人の間で深刻化しているのが大腸がんの増加です。肉食中心の食生活を続けていると大腸がんのリスクを高めてしまいます。

悪玉菌は肉類に含まれるたんぱく質や脂質をエサに増殖する性質があります。大腸で悪玉菌が増殖すると、脂肪の分解に使われる胆汁酸を酸化させて、二次胆汁酸という発がん性を持つ物質が作られます。
ほかにも肉などに含まれるたんぱく質を分解して、ニトロソアミンという発ガン性物質を作り出します。
国立がんセンターがまとめた2016年の大腸がん死亡数を見ると、男性は3位、女性は1位、全体でも2位と高いことが分かります。
死亡者数を見ても増加の一途を辿っています。1950年には3728人であった死亡数が、2016年には50099人を記録し、66年間で約13倍に激増しているのです。
また、1960年代にはほとんど見られなかった潰瘍性大腸炎やクローン病といった腸疾患が若い人の間で増加傾向にあります。このような大腸がんや腸疾患の増加は日本人の腸内環境が悪化していることを示しています。

食事の欧米化が大腸がんなどのリスクを高めている

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日本人はもともと動物性たんぱく質や油脂類を多く摂る民族ではありませんでした。ところが現代の日本人は肉類を毎日のように食べ、油脂類を大量に摂る食生活を送っています。
これはアメリカやイギリスなどの食文化の影響ですが、それによって日本の食卓に上る機会と品数が減っているのが、植物性乳酸菌を含む味噌汁や漬物といった伝統的なメニューです。
1990年代から急速に普及したコンビニやファストフードも、この傾向に拍車をかけました。このような食生活の欧米化が日本人の腸内環境を悪化させ、大腸がんなどのリスクを高めたと考えられています。

植物性乳酸菌は日本人と相性が良い

昔の日本人はカロリーとたんぱく質のほとんどを穀物から摂っていて、乳酸菌で発酵させた味噌や醤油、漬物などから植物性乳酸菌を毎日のように摂っていました。
それにも関わらず、当時の日本人の腸内環境は現代よりもずっと良かったと考えられています。また、現代と比べて穀物や野菜を発酵させた食品の種類が多かったと言われています。
食生活の変化と腸内環境の悪化の関係を見ても、植物性乳酸菌は日本人に合っていることを示しています。動物性乳酸菌は日本で100年程度の歴史しかありません。一方、植物性乳酸菌は1000年以上の歴史があります。
日本の食文化に根付いてきた植物性乳酸菌によって、日本人は健康を支えられてきたのです。植物性乳酸菌を積極的に摂って腸内環境を良好に保ち、大腸がんや腸疾患のリスクを下げましょう。

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