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胃を保護する乳酸菌

胃炎や胃潰瘍を引き起こすピロリ菌

ピロリ菌とは

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腸内にたくさんの悪玉菌が生息しているように、胃の中にも種類は多くありませんが悪玉菌が生息しています。
その代表は胃炎や胃潰瘍の原因となるヘリコバクター・ピロリ、通称ピロリ菌です。螺旋状の形をした4ミクロン(4/1000mm)と極めて小さく、胃の粘膜の中を漂っている菌です。
ピロリ菌は食道から送られてきた食べ物を養分にして活動しています。ピロリ菌が養分を得るために胃の粘膜に張り付くと、ウレアーゼという酵素を作り出します。
このウレアーゼが胃の中の尿素と反応することで、アンモニアなどが発生し胃の粘膜を傷つけてしまいます。

ピロリ菌が引き起こす症状

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ピロリ菌によって胃の粘膜が傷つけられると、細胞を守るために免疫反応が起きて炎症が発生します。もちろんこの炎症自体は、ピロリ菌を排除するための小さな炎症であり、多くは自覚症状がないまま治まります。
ところが胃の中でピロリ菌が増殖すると、炎症が慢性的に続いてしまうため、胃に不快感が生じて慢性胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍が引き起こされます。

抗生剤による除菌には弊害もある

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ピロリ菌の除菌には、2種類の抗生剤と胃液の分泌を抑える薬が使われていて、除菌成功率は70%程度です。ピロリ菌の感染が疑われる方は病院で除菌してもらうことをお勧めします。
しかし、抗生剤の投与には弊害もあります。一つは耐性菌の存在です。抗生物質を多用することでウイルスや細菌の中から耐性を持つ菌が生まれます。
この菌が増殖するとこれまで投与していた抗生剤の効き目が悪くなり、除菌に失敗してしまいます。するとさらに多くの抗生剤を投与することになり悪循環に陥ります。
また、抗生物質には下痢などの副作用があり体に負担をかけてしまいます。ほかにも抗生物質を投与することで体に害を及ぼすピロリ菌だけでなく、体に有用な善玉菌まで殺してしまうというデメリットがあります。

ピロリ菌には乳酸菌が有効

抗生剤とヨーグルトの併用が効果的

このように抗生物質による除菌には限界があることから、近年では生きた善玉菌の力で健康に繋げるプロバイオティクスを活用する動きが広がりつつあります。
生きて腸まで届く乳酸菌はプロバイオティクスの代表ですが、病院によっては抗生剤による除菌と併用して、ピロリ菌に有効な乳酸菌を含むヨーグルトを食べることを推奨するところもあります。

ピロリ菌陽性患者を対象に行った試験では、乳酸菌を含むヨーグルト90gを1日2回4週間摂ってもらい、最後の1週間は抗生剤と併用してもらいました。
その結果、抗生剤のみを投与すると除菌率は77.8%であったのに対して、抗生剤とヨーグルトを併用することで89.3%まで除菌率が上がることが確認されました。

ほかにもヨーグルトに含まれる乳酸菌の整腸作用によって、抗生剤の副作用である下痢の症状を軽減する効果が期待されています。

ピロリ菌に有効な乳酸菌の種類

一部の乳酸菌にはピロリ菌を除去する効果や、ピロリ菌の活動を抑制する効果が認められています。

OLL2716株

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正式名称はラクトバチルス・ガセリ・OLL2716株、一般的にはLG21乳酸菌という名前で知られています。
胃酸に強い乳酸菌がピロリ菌に効果的であると考えた東海大学医学部の古賀泰裕教授らによって、1999年に約2500種の乳酸菌の中から選び出されました。

OLL2716株はさまざまな乳酸菌の中でも特に胃酸への耐性、胃の粘膜への付着効果が高く、ピロリ菌の除去に最も適しているとされています。
また近年では、抗生剤を投与しても、抗生物質に耐性を持つクラリスロマイシン耐性菌などによる除菌率の低下が問題になっています。
OLL2716株を除菌療法と併用することで、クラリスロマイシン耐性菌に対して強く作用して、効率的に除菌することが確認されています。

・OLL2716株の試験結果
ピロリ菌陽性患者30名を対象に行った試験では、まずOLL2716株を含まないヨーグルトを8週間摂ってもらい、その後にOL2716株を含むヨーグルト90gを1日2回8週間摂ってもらいました。
その結果、OLL2716株を含むヨーグルトを食べた後では、食べる前よりもピロリ菌の活動が抑えられ、胃の炎症が緩和されることが確認されました。

BF-1株

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正式名称はビフィドバクテリウム・ビフィダム・BF-1株、ヤクルトが保有するビフィダム・ヤクルト株を強化培養して生まれたビフィズス菌です。
BF-1株は他の乳酸菌と比べて、胃の粘膜物質であるムチンに接着する効果が高いのが特徴です。このため胃の粘膜に強力に付着して、胃のむかつきなどの症状を緩和する作用があると考えられています。
さらに、BF-1株にはピロリ菌が炎症性物質を生成するのを抑制する働きがあることが分かっています。

ロイテリ菌プロデンティス株

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ロイテリ菌は、スウェーデンに本社を持つバイオテクノロジー企業バイオガイアが保有する菌株で、ペルーの高地に暮らす母親の母乳から分離、培養されました。
生きて腸まで届くプロバイオティクスの乳酸菌です。ロイテリ菌は大きく分けてプロテクティス株とプロデンティス株の2種類があります。
このうちプロデンティス株には、ピロリ菌を抑制する効果が認められています。

・ロイテリ菌プロデンティス株の試験結果
ピロリ菌陽性患者15名を対象に行った試験では、胃酸を抑える薬とロイテリ菌を併用した治療を受けてもらいました。一ヵ月後に検査を行った結果、60%にあたる9名でピロリ菌の感染が抑制されることが確認されました。

SN13T株

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正式名称はラクトバチルス・プランタラム・SN13T株、広島大学大学院の杉山政則教授によって植物の葉から分離されました。胃液や胆液に対して強い耐性を持ち、生きて腸まで届くプロバイオティクスの乳酸菌です。

このSN13T株が持つ大きな特徴の一つがピロリ菌を抑制する効果です。これまでの研究ではSN13T株を特定の果汁で培養することで、抗ピロリ菌物質が産生されることが分かっています。
例えば桃果汁で培養すると、カレーやコーヒーに含まれるカテコールという物質が作られることが確認されています。この物質が胃の中で働くことでピロリ菌の活動が抑制されます。
さらに微量の酒糟を添加した桃果汁で培養すると、チロソールという物質が作られることが確認されています。この物質にもピロリ菌の活動を抑制する効果があります。

慢性的な胃の不調が続く機能性ディスペプシア

機能性ディスペプシアとは

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胃に不快感を感じるからといって必ずしもピロリ菌が原因とは限りません。ピロリ菌に感染していないにも関わらず、胃の痛みやもたれが慢性的に続くことがあります。
病院で検査してもらっても胃炎や胃潰瘍が見つからないこのような症状を、近年では機能性ディスペプシア(FD)という病名で呼んでいます。
多くは慢性胃炎が疑われますが、詳しく調べると炎症が発生していないことが多く、長く謎の症状とされてきました。この病気が正式に認められたのは2013年とごく最近です。
機能性ディスペプシアの原因としては、ストレスや生活習慣の乱れ、喫煙、脂分の多い食生活、運動不足などが挙げられています。

機能性ディスペプシアの症状

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具体的な症状としては以下の四つがあります。

・食後に胃がもたれる
・すぐに満腹感を感じてしまい十分に食事を摂ることができない
・みぞおちが痛む
・みぞおちが焼けるように痛い

一つ以上の症状が該当し、症状が6ヶ月以上前からあり、3ヶ月以上続いている、症状によって生活に悪影響が出ている方は機能性ディスペプシアと診断されます。

機能性ディスペプシアを改善する乳酸菌

一部の乳酸菌には機能性ディスペプシアの症状を改善する効果が認められています。

OLL2716株

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2017年11月、東海大学医学部の高木敦司教授は、乳酸菌が持つ機能性ディスペプシアの改善効果について発表しました。高木教授が注目した乳酸菌は、胃酸に強い耐性を持ち、pH1~2という強酸性の胃液を分泌する胃の中でも活発に活動できるOLL2716株です。

・OLL2716株の試験結果
高木教授ら研究グループは、ピロリ菌に感染していない20~64歳の機能性ディスペプシア患者106名を対象に試験を行いました。
まず106名を二つのグループに分けて、一方にはOLL2716株を含むヨーグルトを、もう一方のグループにはOLL2716株を含まないプラセボヨーグルトを、それぞれ1日1回85g12週間摂ってもらいました。
その後、胃の症状に対する効果の印象についてアンケートに回答してもらいました。

その結果、OLL2716株を含むヨーグルトを摂ったグループでは、プラセボヨーグルトを摂ったグループと比べて、胃の症状が改善傾向にあることが分かりました。
アンケート結果では、胃の症状が「非常に良くなった」「良くなった」と答えた方の割合が、プラセボヨーグルトを食べたグループよりも約16ポイント高くなりました。
さらに、機能性ディスペプシアの四つの症状全てがなくなった方の割合を調べたところ35.2%と、プラセボヨーグルトを摂った方の約2倍であることが確認されました。

B.ビフィダム.Y株

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正式名称はビフィドバクテリウム・ビフィダム・ヤクルト株、胃の粘膜に付着する力が強いビフィズス菌として選び出されました。
多くのビフィズス菌は酸素のある環境では活動できませんが、B.ビフィダム.Y株は強化培養によって、消化管の中でも口から近く酸素が比較的多い胃の中で生き抜くことができます。
これまでの研究では、B.ビフィダム.Y株が胃の粘膜に付着することで、胃のむかつきなどの不定愁訴や機能性ディスペプシアを改善する効果が期待されています。

・B.ビフィダム.Y株の試験結果
機能性ディスペプシア患者37名を対象に行った試験では、B.ビフィダム.Y株を10億個含む乳酸菌飲料を1日100ml4週間摂ってもらいました。
飲用4週間後または飲用を中止してから4週間後に、消化管の自覚症状を15項目からなるアンケートであるGSRS(消化器疾患症状尺度)で評価しました。
その結果、便秘や下痢、腹痛、胃もたれなどのスコアが低下し、これらの症状が軽減されることが確認されました。さらに飲用を中止して4週間経っても効果が持続することが確認されました。

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