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乳酸菌とIgA抗体

IgA抗体の働き

IgA抗体とは

IgA抗体という言葉はあまり聞きなれませんが、私たちの体にとってなくてはならない免疫物質です。その主成分はたんぱく質であり、免疫グロブリンとも呼ばれています。
IgA抗体は目、鼻、口腔内、消化管などの粘膜で分泌され、唾液、鼻汁、胆汁、涙液などの分泌液にも多く含まれています。さらに母乳には大量のIgA抗体が含まれています。

ウイルスや細菌を粘膜でブロックするIgA抗体

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ではIgA抗体はいったいどのような働きをしているのでしょうか? その働きを知るためには、まず免疫システムについて理解しなければなりません。

私たちの体には細菌やウイルスなどの病原体から身を守る免疫システムが備わっています。
体に害を及ぼす病原体は肌から侵入することはあまりありません。なぜなら、肌は表面の角質層によって守られているからです。
ではどこから侵入することが多いのかというと、粘膜です。私たちの体内で外気に接する粘膜と言えば、口腔内と胃や腸などの消化管で、呼吸や食事によって侵入してきた病原体と常に接する、いわば感染防御の最前線です。
そんな粘膜は柔らかく敏感であり、血管とも繋がっているため、ここを突破されてしまうとあっという間に病原体が全身を駆け巡ります。
そこで粘膜ではIgA抗体を分泌することで、ウイルスや細菌などの異物を包み込んで粘膜の内側に侵入されるのを防ぎ、便と一緒に排出を促す働きをしています。

腸管で働くIgA抗体

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IgA抗体は体内のさまざまな粘膜から分泌されていますが、その中でも最も重要な働きをするのが、小腸の腸管粘膜から分泌されるIgA抗体です。腸は呼吸や食事によって常に外気が入り込み、一緒にウイルスや細菌などの病原体も侵入します。
また、小腸の表面積はテニスコート1面(約200m)と広大であり、他の器官とは比べ物にならないほど多くの異物と接触するため、感染防御の最前線として働きます。

そんな小腸には体中の免疫細胞の約6割が集まっています。口から侵入した異物が胃を通過して小腸に到達すると、まずパイエル板と呼ばれる免疫組織と接触します。
小腸の粘膜には食べ物を効率よく消化吸収するために絨毛がありますが、パイエル板には絨毛がなく直に異物と接触することができます。
そこでまず働くのがM細胞です。この細胞は、侵入してきた異物が体に無害なものか、それとも病気などを引き起こす可能性がある異物かを判断する検査機のような働きをします。
ここで、食べ物やホコリなど無害なものはそのまま通過させ、病原体などはパイエル板に取り込まれます。そして、体内をパトロールして病原体を捕食するマクロファージと、「抗体を作って対処しろ」と指令を出すヘルパーT細胞に情報を伝えます。
ヘルパーT細胞は抗体の生産工場であるB細胞に指令を出し、IgA抗体が作られます。そうしてIgA抗体によって、細菌やウイルスは便と一緒に排泄されます。
また、IgA抗体は病原体にくっついて侵入をブロックするだけでなく、粘膜を突破されたときのために、マクロファージが食べやすい形に変える働きもします。

アレルギーを予防する

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IgA抗体は、ウイルスや細菌から感染を防ぐだけではなく、アレルギー疾患の予防にも貢献しています。IgA抗体はどのようなアレルゲンに対しても働く性質があり、花粉やハウスダストのほかに、食物アレルギーに対しても有効です。
例えば花粉が鼻に侵入すると、鼻の粘膜からIgA抗体を分泌して花粉をしっかりキャッチします。そして体内に吸収させずにそのまま鼻水などと一緒に体外に排出します。
ソバアレルギーや卵アレルギーなどの食物アレルギーの場合は、小腸の粘膜からIgA抗体を分泌して、腸管から吸収されないように粘膜層でブロックします。つまりIgA抗体の分泌を促すことができればアレルギー疾患を予防することができるのです。

乳酸菌を摂ってIgA抗体の分泌を促す

免疫細胞を刺激する乳酸菌

そこで期待したいのが、乳酸菌が持つ免疫賦活作用です。乳酸菌を摂ることで腸内の善玉菌が活性化されると、悪玉菌が抑制されて腸内環境が改善されます。
それによって免疫力を高めることができますが、乳酸菌の働きはそれだけではなく、免疫細胞そのものを刺激して活性化することができます。
食べ物やサプリメントから摂った乳酸菌は、胃を通過して小腸に到達します。すると一部は病原体やアレルゲンと同じように、パイエル板によって異物として取り込まれます。
そしてパイエル板内のマクロファージに捕食され、その情報がヘルパーT細胞へと伝えられ、「病原体ではなさそうだけど念のためIgA抗体を作るように」とB細胞に指令が送られます。
こうして乳酸菌によって免疫細胞が刺激されることで、IgA抗体の分泌が促されて、ウイルスや細菌の感染リスクや、アレルギー疾患の発症リスクを下げることができる仕組みです。

全身のIgA抗体分泌を促す

乳酸菌によって免疫細胞が刺激されて分泌されるIgA抗体は、小腸だけに留まりません。M細胞から始まった乳酸菌の情報伝達は、IgA抗体が作られることで全身へと伝わります。
それによって小腸以外にも口腔内など体中の粘膜からIgA抗体が分泌されるようになります。体全体の粘膜でウイルスや細菌をブロックし、IgA抗体によってしっかりキャッチして動きを封じ込めます。
そして粘膜の内側に侵入させることなく便として排出させ、侵入されたとしてもマクロファージが食べやすい形に変えることで、感染リスクを下げてくれます。

効果は生きた菌でも死滅した菌でも変わらない

この効果は生きた菌でも死滅した菌でも変わりません。巷では「生きた乳酸菌が体に良い」という話をよく耳にしますし、ヨーグルトメーカーなどでも「生きた菌が腸で働く」と宣伝しています。
確かに間違っていませんし、生きた乳酸菌には優れた整腸作用が期待できますが、免疫細胞を刺激する働きは、生きた菌でも死滅した菌でも変わりません。
乳酸菌の生死に関わらず、菌体と菌が産生した成分が小腸まで届けば良いのです。それによって免疫細胞が刺激されて、IgA抗体の分泌を促すことができます。

生きた乳酸菌は効率が悪い

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生きた乳酸菌は菌同士が凝集する性質があります。凝集が大きくなるとパイエル板を通過できなくなるため、免疫細胞を刺激することができなくなってしまいます。
そして重要なのは乳酸菌の生き死にではなく、とにかく出来るだけ多くの菌を小腸に送り込むことです。摂取する菌の数が多ければ多いほど、パイエル板を通過する菌が多くなり免疫細胞を刺激する効果が期待できるからです。
ところが、食品に含まれる生きた菌は自然な発酵によって増殖させているため、含まれる菌の数には限度があります。例えば生きた乳酸菌を摂る場合の定番であるヨーグルトには、100mlあたり10億個の乳酸菌が含まれています。
多いように感じるかもしれませんが、免疫細胞を刺激するためには大量の菌が必要であり、この数では不足です。大量の菌を小腸に送るためにはたくさんのヨーグルトを食べる必要があり、これを続けるのはちょっと大変です。

一度に大量の菌を摂取できる死菌がおすすめ

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そこでおすすめしたいのが、製造段階で加熱殺菌処理した死菌を配合したサプリメントです。乳酸菌は死滅させることで高密度に圧縮することができます。
そのためカプセル1個に数百億個から数千億個もの菌を配合することができます。多いものでは1回分で1~2兆個もの菌が配合されています。
これだけの菌を小腸に送り込めば、たくさんの菌をパイエル板を通過させることができるようになり、免疫細胞を刺激する力も強いものになります。
つまり、小腸からパイエル板に吸収される乳酸菌の数が多ければ多いほど、免疫細胞が活発に働いて病気やアレルギーに強い体を作ることができるのです。

IgA抗体の分泌を促す働きの強い乳酸菌の種類

大量の乳酸菌を小腸に届けることで免疫細胞を刺激することができますが、乳酸菌は種類によってその働きに大きな違いがあります。
どの乳酸菌でも同じような効果が期待できるわけではなく、より免疫細胞を刺激する作用の強い種類を選びたいところです。以下はIgA抗体の分泌を促す効果の強い代表的な乳酸菌です。

L-92株

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正式名称はラクトバチルス・アシドフィルス・L-92株、カルピスが保有する乳酸菌の中から、アレルギー症状を抑制する効果が特に期待できる菌株として選び出されました。
L-92株には、花粉症や通年性アレルギー性鼻炎の症状を軽減する働きが認められていますが、これまでの研究で、唾液中のIgA抗体の分泌を促す働きがあることが分かっています。

免疫力の低下が指摘された30~65歳の男女112名を対象に行った試験では、二つのグループに分けて一方にはL-92株を含む飲料を3ヶ月間摂ってもらいました。摂取前と摂取期間中1ヶ月毎には、唾液を採取してIgA抗体濃度を測定しました。
その結果、L-92株を摂った方は摂らない方と比較して摂取4週目に唾液中のIgA抗体濃度が高く、摂取前よりも大きく上昇していることが確認されました。

プラズマ乳酸菌

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正式名称はラクトコッカス・ラクティス・JCM5805株、キリンと小岩井乳業の共同研究によって発見された乳酸菌です。
優れた免疫賦活効果が認められていて、NK(ナチュラルキラー)細胞やヘルパーT細胞を活性化することで、風邪やインフルエンザの感染リスクを下げる働きが認められています。
さらにプラズマ乳酸菌には唾液中のIgA抗体濃度を上昇させる働きがあることも分かっています。

R-1乳酸菌

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正式名称はラクトバチルス・デルブルッキー亜種・ブルガリクス・OLL1073R-1株、ヨーグルトで有名なブルガリア菌の一種です。
R-1乳酸菌には優れた免疫賦活作用があり、風邪やインフルエンザの罹患リスクを下げる働きが認められています。
これは、R-1乳酸菌にはIgA抗体の分泌を促す強い作用があり、唾液中のIgA抗体濃度が上昇することで、インフルエンザの予防に繋がると考えられています。

高齢者96名を対象に行った試験では、二つのグループに分けて一方のグループにはR-1乳酸菌を含むヨーグルトを、もう一方のグループには他の乳酸菌入りヨーグルトをそれぞれ毎日100g12週間摂ってもらいました。
その結果、R-1乳酸菌を含むヨーグルトを摂った方では摂っていない方と比較して、唾液中のIgA濃度が大きく上昇することが確認されました。

乳酸菌B240

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正式名称はラクトバチルス・ペントーサス・ONRICb0240、タイ北部で伝統的に食べられてきたミヤンという発酵茶から分離された植物性乳酸菌です。
これまでの研究で、乳酸菌B240にはIgA抗体の分泌を増やす働きがあることが分かっています。また発酵食品由来の乳酸菌150種類を調べたところ、乳酸菌B240が最もIgA抗体の分泌を促す力が強いことが確認されました。

80名の健康な高齢者を対象に行った試験では、二つのグループに分けて一方には乳酸菌B240を20億個含む飲料を12週間摂ってもらいました。
その結果、乳酸菌B240を摂った方は唾液に含まれるIgA抗体の分泌量が高くなり、その状態が持続されることが確認されました。

K15株

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正式名称はペディオコッカス・アシディラクティシ・K15株、ぬか床から分離された植物性乳酸菌です。これまでの研究では免疫細胞の一つである樹上細胞を活性化させることで免疫力を調整する働きが認められています。
さらに産総研などが共同で行った研究によると、IgA抗体の分泌を促す強い作用があることが分かりました。

健康な成人52名を対象に行った試験では、二つのグループに分けて一方のグループ27名にはK15株を12週間摂ってもらい、試験前、4週目、8週目、12週目に唾液を採取してIgA濃度を測定しました。
その結果、K15株を摂った方は摂っていない方と比べてIgA濃度が高いことが確認されました。

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